みもと先生の『恋する名画』1巻を読んだので感想を書いていきます。
『恋する名画』はオムニバス形式の百合短編集で、「名画」をモチーフにしているのが大きな特徴です。各話に話の繋がりはありません。
各話のあらすじはこちらから
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『恋する名画』の感想
『泣く女』(パブロ・ピカソ)
超有名画家の超有名作品。画家といえばピカソかゴッホを思い出す人が多いかと。
親友に歪んだ愛情を持つ女の話。最後のコマの表情が怖い……
いかんせんページ数が少なく泣くまでが短すぎる気もしますが、1話目ということで知名度の高い作品からチョイスしたかったということでしょうか。いきなりマニアックな作品はきついですし。
『モナ・リザ』(レオナルド・ダ・ヴィンチ)
超有名画家の超有名作品その2。この絵の魅力って言葉にしづらい気がします。なんかすごい絵ですよね(語彙力)。
それを百合短編にしたらこうなったという感じでしょう。百合のジャンルとしてはおねロリです。
ロリが何かに「目覚めた」のがわかる描写がよかったです。
『グランド・オダリスク』(ドミニク・アングル)
歪んだ裸体で有名な『グランド・オダリスク』。
スランプの先輩となんだかんだで協力してしまう後輩の話です。こういう関係はいいですわゾ……
「アリストファネス」のくだりは彼の戯曲『女の平和』において女たちが裸になりセックス・ストライキを行うことで戦争を終わらせたというネタ。ゆるそうに見えてこんなのがすぐに出てくる先輩と高度なネタを理解できる後輩のインテリさがわかりますね。
『グランド・オダリスク』っぽい裸体の表現は見事。あれ逆に難しいと思います。
『傷ましき腕』(岡本太郎)
大阪を代表するシンボル『太陽の塔』で有名な岡本太郎。『太陽の塔』は建造物ですが『傷ましき腕』は絵画です。
ゴリゴリの中二病少女・九重には秘密があって……という話。スクールカースト上位の子は下位の子にも優しいっての妙なリアルさがある気がします。厳しいのは中位の奴なんだよな……
ラストのコマの九重の表情が面白かった。
『オフィーリア』(ジョン・エヴァレット・ミレー)
ラファエル前派の画家、ジョン・エヴァレット・ミレー。『落穂拾い』で有名なジャン=フランソワ・ミレーとは別人です。
生け花の稽古から逃げ出したお嬢様と彼女を慕う従者の話。『オフィーリア』要素にちょっと無理やり感が(笑)。
ダーク要素もあって百合短編としての完成度は高め。
『水蛇I』(グスタフ・クリムト)
『接吻』『ユディトI』で有名なオーストリアの画家、グスタフ・クリムト。去年は「クリムト展」が開催されたことで話題になりました。
最近彼女ができた双子の姉と水族館デートする話。彼女ができた姉と姉大好きな妹は双子百合の王道設定ですね。百合漫画は水族館デートしがち説の一つの答えにもなっています。このダークさほんとすこ。
ちなみに自分が「百合」×「名画」で一番最初に連想したのがクリムトです。解説でも触れられていますが彼は女性の絵を多く残しました。それだけにどの絵をチョイスしてくるか気になっていたのですが『水蛇I』はかなり渋い。
『ラ・ジャポネーズ』(クロード・モネ)
『印象・日の出』『睡蓮』で有名なクロード・モネ。『ラ・ジャポネーズ』は当時欧州で流行していたジャポニスム(日本趣味)の絵画です。
ということで日本人×外国人の話。メールの題名がオランダ語なのでオランダ人かな?
この話は甘々でラブラブな話です。この単行本はダークな話が多いので癒しになります。
『マドンナ』(エドヴァルド・ムンク)
『叫び』で有名なノルウェーの画家・ムンク。『叫び』以外の作品の知名度がイマイチな気もします。
好きな子への欲求を別の女で発散しようとしたらやべー奴に当たってしまって……という話。
この話は『恋する名画』の中で最も話題になった話なのはほぼ間違いありません。Googleで「恋する名画 8話」とサジェストされるほど。
非常に妖艶な魅力のある話で、アンソロジー刊行ラッシュにより数々の百合短編が発表された2019年全体でもトップクラスの話だと思います。そもそも描こうと思う人自体があまりいないと思う(笑)
『ぶらんこ』(フラゴナール)
ロココ美術といえばフラゴナールの『ぶらんこ』。ロココ美術を象徴する作品です。
離婚して地元に帰ってきたら同級生に再会して……という話。
容易におねロリにせず、童顔の同級生設定にしたのは結構大胆で凄い。おねロリを『モナ・リザ』で使ってたのもあるかもしれませんが。
解説でも触れられていますがこの絵はもともとスカートの中を覗く絵です。『ぶらんこの絶好のチャンス』 という名前で呼ばれることもありますからね。パンツがやたら強調されてるのはモチーフがそうなのであって別にエロではありません(笑)
『ぶらんこ』にはいろいろなエピソードがあって面白いです。中野京子さんの『新 怖い絵』でも扱われていました。
『ピアノを弾く少女たち』(オーギュスト・ルノワール)
『ムーラン・ド・ラ・ギャレット』などで有名な印象派の画家・ルノワール。本作は『ピアノに寄る少女たち』と呼ばれることも。
姉妹のような関係の二人は両想いだと思いきや……
「好き」の意味が違うというのは百合漫画として結構あるあるなテーマですが、かなり上手くまとめていると思います。特にラストでぼかさずハッキリ言いきってしまうところがすこ。愛のカタチは人それぞれですからね。
まとめ
全体的にちょっとダークな話が多いです。とはいえ「名画」ってそういう背景を持っていることが多いので正しい方向性なのかも?
上から目線で恐縮ですが、一迅社から単行本を出していた頃と比べると格段に画力・コマ割り・構成など「マンガ力」が上がっている印象です。
既刊です。よろしくしてね。 pic.twitter.com/xuSIWet8oi
— みもと (@mimoto225) April 15, 2018
個人的に百合短編として一番好きなのは『水蛇I』、モチーフとなった絵とのシンクロ具合がよかったのは『ぶらんこ』かなぁ。『マドンナ』はある意味百合短編の枠を越えた奇跡の作品だと思います。
オムニバス形式のいいところとして、いろんな話が入るので全部の話が気に入らないってことはかなり稀であることが挙げられます。少なくとも百合か絵画のどっちかが好きなら買って損はないでしょう。
ちなみに11話はアンリ・ルソーの『眠るジプシー女』。
https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_MF01200818010000_68/
これも発想に感服した作品です。ページ数も多く、クオリティはかなり高いかと。
『恋する名画』2巻以降にも期待です。
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